未経験からシステムエンジニアやプログラマーなどのITエンジニアを目指そうとすると、「やめとけ」「後悔する」「とても心配」などの指摘を受けることがあります。
SNSでも「未経験からITエンジニアを目指してはぜったいダメ」と真剣に呼びかけている人もいます。
未経験からエンジニアを目指すことに、どのような障壁や懸念点があるのでしょう。
今回は、未経験でエンジニアを目指すのはやめておけといわれる理由について紹介します。また過剰に否定している声もありますので、噂と現実の違いについても補足します。
未経験でエンジニアを目指すのは「やめとけ」といわれる5つの理由
「未経験でITエンジニアはやめとけ」という発言の裏にはさまざまな背景がありますが、一般的にやめとけといわれる理由として関係してくるのは以下の5点です。
- 残業が多い
- 下請け構造によるつらさ
- 顧客先常駐で苦労するから
- 技術を追うことが大変だから
- AIによって仕事が奪われる可能性があるから
以降では、それぞれの理由について、深堀して解説します。
理由1:残業が多い
ITエンジニアは残業が多い職業として有名です。
システムの納期(リリース日)は厳守する必要があり、納期が近づくと、何としても間に合わせるために長時間残業が発生するケースが多いです。納期前には連日終電帰りや徹夜となる現場もあります。
データとして、厚生労働省「毎月勤労統計調査(令和4年1月分)」をみると、所定外労働時間(残業時間)の多い業種の上位3位は以下のようになっています。
【所定外労働時間の多い業種】 ※数値は一か月の値
1位・・・運輸業、郵便業 21.7時間(総実労働時間158.2時間)
2位・・・情報通信業 15.2時間(総実労働時間148.5時間)
3位・・・製造業 13.6時間(総実労働時間144.2時間)
ITエンジニアの属する「情報通信業」は時間の多さでランキングすると全業種中2位となり、所定外労働時間は15.2時間となっています。また15.2時間というのはあくまで平均であり、中には月の残業時間が50時間以上、100時間以上となっている現場も存在します。
こうしたことから、「残業が多すぎるからやめとけ」「プライベートを犠牲にしたくなかったらやめとけ」などと忠告されることがあります。
■補足:すべての職場が残業が多いわけではない
IT業界にもさまざまな職場があり、中には毎日のように定時上がり、残業とは無縁の職場もあります。一概にはいえないものの、自社開発(社内SE)のような仕事は、納期に融通が利きやすく、残業が少ない傾向です。
理由2:下請け構造によるつらさ
IT業界は、建築業界などとも似ており、ピラミッド型の「下請け構造」となっている業界です。
たとえば、政府の新規ITインフラシステムを開発することになったとします。その場合、まずは大手IT企業が1次請けとしてプロジェクトを組んで指揮を行い、中小IT企業が2次請けとして間を管理し、ベンチャーIT企業などが3次請け、4次請けとその下についていく構造となるのが一般的です。
下請けになるほど「立場が弱く振り回されやすい」「簡単な仕事しか経験できない」「給料が少ない」などの状況に置かれることが多く、つらさや不満を感じやすい事情があります。
そして未経験者の採用を積極的に行っているのは、大手IT企業ではなく、まだ規模の小さいベンチャーIT企業が多いことから、未経験者は下請けの仕事と近い位置にあります。
そうしたことから、「未経験だと下請けでこき使われるからやめとけ」「下流工程の仕事ばかりだからやめとけ」などと忠告されることがあります。
■補足:下請けでも働きやすい現場もある
下請け構造そのものが悪というわけではなく、また下請け構造でも働きやすい現場もあります。1次請けで指揮をしている会社のプロジェクト管理能力が高ければ、その下の2次請け、3次請けの会社の人員もスムーズに仕事を進めることができます。
なおIT業界がすべて下請け構造となっているわけではなく、下請け構造が色濃く根付いているのはSI(システムインテグレーション)系やSES系の界隈です。反対に、自社開発のIT企業やWEB界隈のIT企業では、下請け構造とは縁のない会社も多いです。
理由3:顧客先常駐で苦労するから
ITエンジニアは、「顧客先常駐」という働き方をすることもあります。特にSES(システムエンジニアリングサービス)系の会社のITエンジニアは顧客先常駐となることが多いです。
顧客先常駐では、文字通り顧客先企業のオフィスやプロジェクトルームなどに自分の席が用意され、直行直帰し働く形となります。
顧客先の環境で日々働くことになるため、気苦労も多く、また自分の会社にはあまり出社しなくなるため、孤独感や孤立感を抱えやすい部分もあります。
そうしたことから、「顧客先常駐はやめとけ」「未経験者が顧客先常駐になった苦労がたえない」などと忠告されることがあります。
■補足:顧客先常駐は人によっては良い環境になることも
顧客先常駐は、自社の上司や先輩後輩の関係からは引き離され、良くも悪くも社外の人ばかりの環境で働くことができます。そのため人によっては「直属の上司が近くにいないのでやりやすい」「緊張感はあるが張り合いがある」「さまざまな会社のオフィスで働けて新鮮」などと感じる人もいます。
理由4:技術を追うことが大変だから
ITエンジニアの扱う知識や技術は膨大にあり、たくさんのことを学ばなければなりません。とくに最初のうちは覚えることが無数にあり、帰宅後や休日などにも自主的な学習が必要になることもあります。
また、IT技術は日々進歩しておりますので、学びに終わりはなく、常に新しい技術にアンテナを張り、知識をアップデートしていく必要もあります。いくつになっても知的好奇心を絶やさず、学びを続けていかなければならず、歳をとるにつれだんだんと学ぶ行為が辛くなっていくケースもあります。
そうしたことから、「勉強や学ぶことがキライな人はやめとけ」「ITに関心ないならやめとけ」などと忠告されることがあります。
■補足:学ぶことが楽しい人には天職になることも
根っからITやコンピュータへの関心が高い人、もしくは知識を蓄え自己研鑽することが好きな人などであれば、ITエンジニアの仕事は、趣味やライフワークのように楽しみながら行えてしまうケースもあります。
そのようなタイプの人であればITエンジニア職は天職ともいえ、将来の伸びしろも期待できます。実際に40代50代以上になっても技術への知的好奇心が薄れず、第一線で活躍している方もいます。
理由5:AIによって仕事が奪われる可能性があるから
AI(人工知能)の進化は目覚ましく、今後多くの仕事がAIに置き換わると予想されています。
ITエンジニアもそのうちに含まれ、特に機械的なプログラミング作業、保守やテストなど自動化しやすい部分に関しては、将来AIに代替される可能性が高いといわれています。
さらに将来をみると、2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)をむかえ、AIの能力は考えられないほど向上し人間では勝てない分野が増えてくるともいわれてます。
こうしたことから、「ITエンジニアはいずれ仕事がなくなるからやめとけ」「将来性がないからやめとけ」などと忠告されることがあります。
■補足:人間としての力も武器となるため一概にはいえない部分も
単純作業や機械的な作業はAIによって代替される可能性はありますが、それはITエンジニアに限らずもはや多くの仕事にいえることです。
また、ITエンジニアという仕事は、技術力だけでなく、アイデア、コミュニケーション力、マネジメント力など、人間としての力も重要視されます。とくに上流工程になるほどそれが色濃くなり、そのような部分にAIが参入してくるのはまだまだ先と考えられています。
未経験からITエンジニアになり「よかった」と感じる人もいる
このように未経験からITエンジニアになるのは「やめとけ」といわれることも多いですが、IT業界といっても、さまざまな企業、職場、職種がありますので、一概に良い悪いの評価ができるものでもありません。
覚えることも多く、たしかに未経験からでは大変な部分もありますが、「よい職場に出会え大切に扱われており、未経験でも充実した毎日をおくれている」「最初は大変だったけれど、未経験から手に職を身に付けることができた」など、未経験からITエンジニアになり「よかった」という声もあります。
どういった企業を選ぶかによっても満足度というのは変わってきますので、未経験からの転職に不安を感じている方は、一度、転職アドバイザーに相談してみるのもおすすめです。
ITエンジニアには良い意見も悪い意見もある
以上、未経験からITエンジニアになるのは「やめとけ」といわれる理由について紹介しました。
ITエンジニアは専門的な職種であることもあり、良い意見も悪い意見も飛び交っています。
そして、やりがいをもって長年続ける人もいれば、耐えられずにすぐに辞めてしまう人もいます。
何を重視するかはその人によっても変わりますので、周りの意見を参考にしつつも、「自分であればどうなのか」という視点も取り入れて考えたいところです。