ITエンジニア向けの求人を探していると、「未経験OK」「年齢不問」「誰でも歓迎」のような条件のゆるい求人がたくさん目に入ります。規模の大きな会社や比較的待遇のいい会社が、未経験採用を積極的におこなっているケースもあります。
技術スキルが必要になるITエンジニア職であるにも関わらず、未経験からの入社で待遇がいいというようなことがあるのでしょうか。「怪しい」「なにか裏があるのでは?」と不安に感じている方もいるのではないかと思います。
そこで今回は、未経験求人が溢れる事情について、またブラック求人の見分け方について解説します。
未経験エンジニア向けの求人が多いのは「人手不足」が原因
IT業界において未経験エンジニア向けの求人が多いのは、怪しい会社が多いというよりも、「人手不足」のほうが大きく関係しています。
IT業界では人手の絶対数が不足しており、猫の手も借りたいような状況です。そのため、経験者だけではカバーできず、未経験者も積極的に取り入れようとしているのです。
人手不足が深刻化するIT業界
IT化が進む中、ITエンジニアの仕事は急増しています。一方でエンジニアの数は大きく不足しており、日本はアメリカなどの諸外国に比べても人手不足が顕著です。
経済産業省がまとめた「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によれば、今後2030年には国内で約79万人のIT人材が不足すると予測されており(高位シナリオ)おり、すでに現時点でも人手不足は深刻化しています。
とくにSI(システムインテグレーション)分野で働くITエンジニアの成り手が不足しており、SI系の企業では、ITエンジニアの取り合いのような状況が続いています。
一方でWEB系のITエンジニア職(WEBプログラマーやWEBデザイナーなど)は若者にも人気が高いため、SI界隈ほどは人手不足が深刻化していません。
大手転職サービス『doda』が公表する「転職求人倍率レポート(2022年12月)」では、各職種の求人倍率が集計されていますが、「エンジニア(IT・通信)」の求人倍率は12.09倍となり、他職種を大きく引き離す求人倍率が記録されています。
未経験者やシニアなどからも人手を集めようとしている
IT企業のビジネスを支えているのはエンジニアの技術力となるため、エンジニアがいないと商売が成り立ちません。
そのため、深刻化する人手不足の中で労働力を確保するためにも、未経験者をはじめとした以下のような人材を積極的に取り入れようとする動きが見られます。
・未経験者(業界未経験者、職種未経験者、社会人未経験者など)
・定年退職した60代以上のシニアエンジニア
・女性(IT業界では女性が少なく、育児のおわった女性なども新たな働き手として注目されている)
・外国人労働者 など
ネームバリューの乏しい小さなIT企業などでは、求人を出してもまったく人が集まらないケースもあり、そうした企業では未経験者やシニアエンジニアなどを取り入れようとする動きが目立ちます。
中には怪しい求人もある、ブラック求人の見分け方4つ
IT業界では人手不足の影響から、優良企業が未経験求人を出しているケースも少なくありません。しかし、中には人手不足に関係なく、本当に怪しい未経験求人も紛れています。いわゆる「ブラック企業」の求人です。
そのような怪しい求人は、どのように見分ければよいのでしょう。ここでは見分け方のポイントを解説します。
土日が休みでない、週休2日制でない
IT業界では業種や企業の大小問わず「土日休み」「週休2日制」が基本です。もしも募集要項に「土日休み」「週休2日制」の明記がない求人を見つけた場合には注意が必要です。
土日も常にオフィスに出社しシステム開発を行っている会社は、業界の常識でみると「異常」といえます。システムリリース前の繁盛期や障害対応時などをのぞき、IT業界では通常土日の出勤はしません。
例外として、システムの保守や運用監視をメインとしてる会社では、業務の性質上、24時間の交代制勤務となることがあります。ただしそのような場合は、勤務形態や勤務時間について詳しい説明が書かれているのが一般的です。
常に求人を出している
求人サイトをみると、何か月もずっと同じ求人を出し続けている企業があります。
常に求人を出している企業は「悪評が多く求人を出しても埋まらない」「ブラック企業で入社してもすぐに人が辞めて補充を繰り返している」などが疑われます。
前述もしたように人手不足の影響から、ネームバリューの乏しい小さなIT企業などでは、優良企業であっても人が集まらず常に求人が出されていることもあります。
裏を返せば、ネームバリューが高く、規模も大きい企業であるにも関わらず、常に求人を出しているような企業の場合、人手不足とは別に何かしらの人が集まりにくい原因を抱えている可能性があります。
平均年齢が極端に低い
平均年齢が極端に低い企業というのは「入社してもすぐに人が辞めており定着していない」「長く働いている人が少ない」ことが疑われます。
IT業界というと年齢層が若いイメージもありますが、SI系の企業ではさほど若い人が多いという訳でもありません。たとえばSI系の最大手「NTTデータ」の平均年齢は39.0歳となっています(2022年有価証券報告書より)。
平均年齢は企業規模や設立年数の影響も受けますが、裏を返せば、企業規模が大きく、歴史も長い会社であるにも関わらず、同等のライバル会社よりも平均年齢が極端に低い場合には注意が必要となります。
なお、ベンチャー系IT企業、WEB系のIT企業の場合は、優良企業、ブラック企業問わず、平均年齢は全体的に低い傾向であり、平均年齢が20代の会社も少なくありません。
顧客先常駐である
「顧客先常駐」というのは、顧客先の企業に席が用意され、直行直帰する働き方のことです。SES系(システムエンジニアサービス)の会社では顧客先常駐となることが多いです。
顧客先常駐そのものが悪という訳ではなく、大手の優良企業勤務のエンジニアでも顧客先常駐となることがあります。
しかし顧客先常駐をメインとした会社にはブラック企業が多いのも事実です。人がいれば成り立つビジネスであるため、未経験者を採用し、十分な事前教育もせずに、上司や先輩もつけず一人で顧客先常駐をさせる企業もあります。
顧客からみれば未経験者もプロのエンジニアとして見られますので、未経験者が一人で顧客先常駐となると悲惨な状況となりかねません。
なお以下のようなワードの書かれた求人では、顧客先常駐となることが多いです。
- 「顧客先常駐」と明記されている
- 社外SE、社外プログラマーなど「社外」の記載がある
- 「外部プロジェクトに参加できます」「さまざまな企業やプロジェクトで働けます」などの記載がある
- 会社の所在地と勤務先の場所が異なる など
固定残業代を取り入れている
他企業と比べ給与が高いように見えていても、そこに固定残業代が含まれているかどうかが重要となるでしょう。
固定残業代となる場合は、実際の残業有無にかかわらず従業員には残業代が支払われます。そのため、仮に残業が少なかった場合でも給与に影響を与えません。
一方で、例えば45時間分の固定残業代が含まれている場合、そのぐらいの時間の残業を前提とした業務である可能性もあります。固定残業代が含まれていることから、残業をすることが当たり前という社風や雰囲気がある企業も多いかと思います。
そのため、給与がいいからと言って、本当に労働と比例した額なのか?という観点も意識して、固定残業代の有無を確認してみましょう。
評判やキャリアアドバイザーを利用して内部事情を把握
入社しようとしている企業が優良企業なのか、怪しいブラック企業であるのかは、求人の情報だけでは見分けられないこともあります。
求人内容や面接の雰囲気では優良企業だと感じていたけれど、実際に入社して蓋を開けたらブラック企業であったというケースもあり、その逆も然りです。
幸い、昨今はインターネット上にたくさんの評判、口コミ情報がまとめられており、実際に働いている人、過去に働いていた人の生の声を見ることができます。SNSにも現在進行形の情報が溢れています。
そうした組織内部の現実を知る人たちの意見を拾うことも大切です。
また、転職エージェントのキャリアアドバイザーは、紹介先企業の社風、職場環境などの内部事情について情報を抑えていることもありますので、キャリアアドバイザーに相談し内部事情を教えてもらうのも一つの手です。
怪しく感じたら入念にチェックしよう
以上、未経験エンジニアの求人事情について解説しました。
IT業界では人手不足が深刻化していますので、優良な企業でも未経験採用を行っているケースがたくさんあります。しかし同時に「未経験OK」と「ブラック企業」はどうしてもワンセットになることが多く、IT業界においても未経験者を酷使するブラック企業が存在します。
悪質な企業に入社しないためにも「なんだか怪しい」「これはおかしいな」と感じたら、口コミ情報やキャリアアドバイザーを利用するなどして、企業の質を入念にチェックしておきたいところです。